向こうに佇む二人は、桃の花越しに富士を眺めている。手前はどうやらネギ畑で、春ネギならば時期的にはほぼ桃の花の時期と重なろう。
 もともと牛臥山は島で、下香貫まで海水が入りこみ、内側一帯は入り江だった。島の入り江に面した土地ということで安永年間(1772〜1781)までは「島江(とうごう)」とされていたが、その後、次第に土地が干拓され入江が無くなったので江を郷に代え「島郷」となった。江戸中期以降、桃の栽培がこの地で行なわれ始め、明治以降、品種改良が行なわれて栽培が盛んとなると、地名も「桃郷」に変わる。地元生産農家が、御用邸ご滞在中の天皇に「桃郷の桃」を献上したという。昭和天皇も、それをたいそう楽しみになされており、御用邸ご滞在中「トウゴウの桃はまだか」とご下問されたという。
 沼津青果様のお話では、現在、桃を生産する農家は7件ほどで、うち、市場へ出荷する農家は2件という(2018年6月現在)。
 撮影時期は、明治26年に沼津御用邸が「島郷御料林内に造営された」とあることや、また電柱が写りこんでいることから、明治中〜後期の撮影ではないかと思われる。


  桃郷海岸に遠足に来た小学生たち。ふだんは赤ん坊を背負っているのだが、この日ばかりは家の者が面倒を見ているのだろう。お弁当を背負い、草履を持って浜辺に遊ぶ。向こうの牛臥山左端の建物群は三島館。


左 2018年6月8日入手の「トウゴウの桃」。2018年夏時点で、僅かながら市場に出回っているという記録。
出始めで1箱2000円。最近の品種に比べ、やや、小ぶりだが、美味。
伝統あるこのパッケージも、コスト高のため、変えようかという意見も一部あるという。
右 桃の老木。実がなっている。背後の松林は沼津御用邸(2018年6月10日撮影)