風早の、三保の浦曲を漕ぐ舟の。 浦人騒ぐ波路かな。 これは三保の松原に、白龍と申す漁夫にて候。 (謡曲「羽衣 冒頭ワキの一セイ」) 謡曲「羽衣」は、三保の松原(有度うどの浜)に伝わる羽衣伝説に素材を求めたもの。 漁夫白龍は、三保の松原のとある松の木に美しい衣が懸かっているのを見つけ持ち帰ろうとする。そこへ天女が現れ、それは自分の羽衣だから返してほしいと言う。白龍が断ると、天女は羽衣がないと天に帰れないと歎き悲しむ。その哀れな様子に心を打たれた白龍は、天人の舞を見せてくれれば衣を返すという。天人は喜んで、月の世界での生活の様子や、三保の松原の春景色はその天界にも勝るものと謡いながら袖を翻して舞を舞う。しばらくして富士の山よりも高く、霞んだ空の彼方へと消え失せた。 もともと万葉集巻七「風早の三穂の浦廻を漕ぐ船の船人騒ぐ浪立つらしも」が原歌で、「三穂」は紀伊国日高郡三穂であったが、これを駿河国の三保に転用したものとする説もある。「浦曲」は「うらわ」と読む。 上掲の写真は、三保渡船の船着場の様子。 |